No13「もう一度ストレッチについて」
 

 1.何度言っても不足しがち
  いままでストレッチの重要性について何度も言いましたが、関節や筋肉の痛みや、障害を訴える患者さんの多くは、ストレッチ不足によるものです。 ここでもう一度ストレッチの重要性について考えてみます。

2.発育期から年配の方まで

  図1 成長期には筋肉は引っ張られ成人では硬くなっている

成長期の子供は筋肉がつっぱっているものです。これは、成長するのはほとんど骨で、筋肉は骨の成長に引っぱられて成長していくためで、筋肉をよく伸ばしておかないと成長障害を起こすことがあります。(図1) 成人で、いつもは仕事をしていて週1回とか月1回だけスポーツを行う人などは、特によく筋肉を伸ばしておかないと肉離れの原因となります。アキレス腱断裂などを起こし、思わぬ大けがになることすらあります。 年輩の方で、関節が痛むのを老化だと思い(或いは言われて)あきらめているケースに、ストレッチ不足で筋肉が硬くなっていることが原因のことがよくあります。私は運動器官の老化=筋肉の質・量の低下と考えているので、ストレッチで若返ることも可能だと思います。

3.柔軟性は毎日つく?

 運動能力の要素はいくつもありますが、体を痛めずに運動を続けるために最低限ほしいものに柔軟性・力・持久力があります。「柔軟性は毎日つく」という言葉があるように毎日行えばどんどん柔らかくなりますが、少しさぼるとすぐ硬くなります。「力は毎週・持久力は毎年つく」というように、持久力などはなかなか獲得しにくくなります。(図2)

図2 柔軟性はつきやすいはず
        

4.いつ、どれくらい行う

 運動の前後に行うのは当然です。成長期には一日何回も行ってほしいし、身長は主に寝ているときに伸びるのでお風呂上がりや寝る前にも行ってほしいです。 運動前に行うのは、事故を防ぐためで、運動後に行うと筋肉の疲れが早く回復するという報告があります。行う時間は長ければ長いほどいいのですが、実験的には各筋肉を10秒間充分延ばした状態を4回行えば80%ストレッチが完成されているという報告があります。はずみをつけるとかえって筋肉が収縮してしまうのでゆっくり伸ばしてください。

5.関節を痛めないように行う

 関節の柔らかさと筋肉の柔らかさとを混同しがちです。ストレッチの基本は、筋肉だけを延ばして関節を痛めないように行うということです。 たとえば(図3)は、前腕の筋肉を伸ばそうとしていますが実際は手の関節を伸ばしている(或いは痛めている)だけです。なぜなら前腕の筋肉は、肘を越えて上腕(二の腕)についているからで、前腕のストレッチは、(図4)のように肘を伸ばして行わなければなりません。
 
 
 

(図3)  肘を曲げている(間違ったやり方)

 
 

(図4)  肘を伸ばしている。(正しいやり方)

              
ふくらはぎのストレッチも、(図5)のように膝を曲げると、ヒラメ筋のストレッチのみとなり腓腹筋は伸ばされず(図6)のように膝を伸ばして行うと腓腹筋もストレッチされることになります。
 

(図5) 膝を曲げてストレッチをしている
    (腓腹筋は伸ばされていない)

(図6) 膝を伸ばして行うと腓腹筋も伸ばされる

(図7)は、大腿4頭筋(太もも前面)のストレッチですが大腿直筋だけは股関節を越えているので股関節も伸ばさなければすべての大腿4頭筋はストレッチされません。(図8)は股関節も伸ばしているので、すべての大腿4頭筋が伸ばされています。 要は伸ばそうとしている筋肉が体感で延びている感じを実感するように行えばよいと思います。

   (図7) 股関節を曲げている

  (図8) 股関節を伸ばしている

6.どこから行うか

 順番はありませんが、少なくとも下肢(足部から膝関節周囲)と、体幹(股関節・肩甲骨周囲・腹背・頸部)は、ルーチンに行い、さらに個別に行うスポーツにあわせ使う筋肉をよく伸ばします。

7.肉離れを起こした後のプロトコール(治療と復帰の手段

  肉離れとは、筋肉の繊維の断裂または延びた状態です。いい加減に放っておくと復帰に遅れたり、障害を残すことがあります。安静の時期、ストレッチを始める時期、スポーツ復帰の時期を症状を見ながら正確に把握しリハビリを勧めることが肉離れを治すポイントです。

@急性期(受傷日-4日)RICE(安静・冷却・圧迫・挙上)が原則で腫れがこないようにします。消炎鎮痛剤の服用も有効で、初期に3,4日服用した方が治りが早いという報告があります(逆に1週間以上飲むと治りが遅くなる)

A亜急性期(5日-2週)痛みが取れ次第ストレッチを始めます。痛みがない範囲でゆっくり伸ばしていきます。ストレッチをすることで切れた筋繊維が早く正常に戻る働きがありますが伸ばしすぎると切れてしまうので慎重に行います。 この時期から交代浴を始めます。5-10分温めて、1分くらい冷やすことを交互に行います。 痛んでない方と同じように筋肉を伸ばすことができれば筋肉トレーニングを始め、いよいよ復帰に向けたトレーニングを始めます。 ここで注意してほしいのが受傷後10日目に再受傷しやすいと言うことです。これは10日目には約90%筋力は回復しますが筋肉の強さは70%しか回復していないためケガをしやすい状態にあるためです。 痛めた程度によりますが、受傷後3-6週で復帰することを目標とします。              
 

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