スポーツにケガはつきものである。冬の季節によく行われるスポーツはスキー・スノーボードではないかと考える。そこで今回はここ10年間足らずで人気急上昇のスノーボードによる外傷を中心に「手関節周囲のスポーツ障害」について述べてみたい。
A).手関節の解剖
手関節周囲は小さい8ヶの手根骨と腕の2本の骨、橈骨と尺骨で構成され、互いに靱帯で連絡されている。
B).手関節部の外傷
1)“フォーク状変形”は骨折のサイン!
肘を伸ばしたまま手をついて転んだ時によく見られる骨折のタイプ。
骨折した前腕に形がフォークに似ている |
骨折部 |
2)素人判断は偽関節を作る!
−舟状骨骨折−(図3)
受傷初期の症状が比較的軽いこと、局所症状が早期に消退するため、打撲や捻挫と間違われやすい。親指の付け根で手関節の上に腫れ、圧痛を認めたら、専門医によるレントゲン検査、骨シンチグラフィーをして確かめることが大事である。なぜならば、この骨折は血行障害が起こりやすいので、適切な処置をしなければ、『偽(ぎ)関節』という骨のつかない状態となり、のちのちまで痛み等で苦労する。橈骨(とうこつ)骨折、舟状骨(しゅうじょうこつ)骨折のケガは、サッカー、ラグビー、ハンドボール、アイスホッケー、スキーでもよく起こる。
図3
舟状骨骨折
3)手関節周辺の脱臼
このケガはスポーツでは頻繁に起こるものではありませんが、早期に正しく判断しないとうまく治らないので、見逃さないようにするのが大事です。スノーボードではジャンプ後バランスを崩して硬い雪面(アイスバーン等)で強く手をついて転倒した時に起こる。イ).月状骨後方脱臼 手関節を背屈した状態でさら に背屈を強制されたときに生 じる。手関節の背側の腫れ、 圧痛が目安。ロ).月状骨前方脱臼 転倒時手関節の掌屈を強制さ れたときに生じる。手関節掌 側(手のひら)の腫れ、圧痛 が目安。イ)ロ)、ともに※RICE(みんなのスポーツ医学No11参照)を直ちに行って専門医でレントゲン検査で診断、適切な処置を受けること。
4)母指中手骨基節骨折
思わず転んで手を雪面に強く衝突した時に起こる。即ち、指先からのつよい外力により伸展、外転を強制されて骨折する。骨折が関節に及ぶものをベネット骨折(図4)と呼ばれ、殆どの場合手術が必要。もし、正しく治療されないと機能障害が残り、母指の力は弱くなり握ることが出来なくなる。
5)母指中手指節関節の尺側靱帯(しゃくそくじんたい)損傷
アルペンスキーヤーにしばしば見られる。ストックを握ったまま転倒すると手のひらとグリップの間に握られたベルトで、母指の付け根の外側を押さえられたまま強く反らされ内側の靱帯が切れる。(図5)スノーボードでは転んで母指を雪面に突っ込み外側に強く反らせたときに起こる。
C).予防−正しい転び方をマスターしよう!
スノーボードの滑りを想像してみましょう。そのスタイルは斜面に対して横向きにして、ターンは上体を利用している。両足は一枚の板に固定されており、転んでもはずれず、手にはスキーのようなストックは持たず、ジャンプ等色々なトリックを手軽に楽しめる。が、一旦転倒すれば無防備の上肢(肩、肘、手等)は、直接雪面に衝突してケガをすることが多い。転び方の良し悪しによってケガの程度が左右されます。“下手な転びはケガのもと”スノーボードの正しい転び方をマスターしよう。
○良い例
(@後ろに転ぶのが基本) 膝を曲げて上体の力を抜いて
あごを引き、後頭部を打たないように着雪する瞬間にボードを上げて転ぶ。
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○良い例
(A前に転んでしまったとき) @と同じ様に最初に膝を曲げてつき、衝撃を吸収するため 手を広げて上体の力を抜いて
ベースボールの滑り込み様にボードを上に向けて転ぶ。このとき手首に力を入れたり、指を雪面に引っかけないように。
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× 悪い例
絶対にこのように手をつかないこと。
あわてて思わず自然と手が出てしまうと
手首やひじのケガをする。
追稿『後頭部強打による頭痛は危険のサイン』
この2〜3年前から新聞等でスノーボードの転倒によって起こる頭部外傷後の死亡事故の報道を見受ける。この頭部外傷は比較的緩斜面で滑走中に谷側のエッジが急に雪面に引っかかり《逆エッジ》転倒して垂直に落ちて後頭部を強打して起こる。このケガの多くは初心、初級者で易しいコースで生じ、転倒直後には外表の損傷が殆どなく意識がはっきりしている。だが数十分〜数時間経つと急速に意識障害に陥って危険な状態になる。これは急性硬膜下血腫が生じて起こるものと考えられている。スノーボード滑走後に頭痛を訴える患者には上記の危険性を説明し、安静、滑走禁止を指導すべきであろう。