(くび)のケガとその応急処置
 
 
 
 
1.はじめに
 水泳の飛び込みや、ラグビー、器械体操等に多い首のケガ、なかでも頚髄損傷(けいずいそんしょう)(以下頚損(けいそん))は若年者に発生し、又重篤な傷害を残す事が多いものです。
今回はその診断、とくにスポーツ現場での診断法とその応急処置について述べたいと思います。


図1
2.頚損とは
 頚の骨は7個から出来ていて、その中に呼吸や両手、両足の運動神経や知覚神経の中枢である脊髄(頚髄)が通っています。(図1)
そして、頚は頭を支え両手をぶら下げる働きをしています。
背骨の中で最も運動性が高くその為、頚椎の過伸展や過屈曲をきたす外力が加わりますと、その中の脊髄まで損傷する可能性があります。これを頚髄損傷(頚損)と云います。
 損傷を受けた頚髄の高さ、部位によって呼吸麻痺、手足の麻痺、手又は足だけの麻痺等症状が異なり又その予後が異なる特徴があります。
 

両手で頚部、前腕、
または膝で頭部を固定し、
意識障害をチェックする。

図2
3.スポーツ現場での頚損の診かた(表2)
 いろいろなスポーツ現場での頚損の発生が考えられますが、今回はラグビー練習試合中にフィールドの中でドクター不在中におこったと仮定して述べてみたいと思います。
スクラムやタツクルの後に倒れたままのプレイヤーを発見したら、先ず第lに頭部外傷か頚損を疑って下さい。
 指導者又はレフリーは、倒れたままのプレイヤーの頭側にしゃがみ込んで、両膝又は両手で首から頭を固定しながら意識状態をチェックして下さい。 (図2)
 表1
頭部打撲(脳しんとうを含む)あるいは頚部損傷を疑う場合のチエック事項
(倒れているプレイヤーのそばで,倒れたままでチェックする)
(1)君の名前は?
(2)今日は何月,何日,何曜日か言ってごらん。
(3)今,何をしているのかわかる?
(4)相手チームとグラウンドの名前を言ってごらん。
(5)目を開けたり,開じたりしてごらん。
(6)頭が痛かったり,吐き気がする?
(7)(指を1本,眼前に出し)はっき りみえる?
(8)手や足がしびれていない?
(9)腕を曲げてごらん,伸ばしてごらん。
(10)足を曲げてごらん,伸ばしてごら ん。
(11)立って膝の屈伸を2,3回してごらん。(自力で)
(12)少し(2−3m)走ってごらん。
一つの項目でもできなければ直ちに医療機関に搬送してください
4.意識障害のある場合
 表1のチェック項目に従って、診察をすすめて下さい。
意識障害のある場合は先ず、脳しんとうや脳挫傷、頭蓋内出血等を疑って下さい。
更に上記の頭の損傷に、頚髄損傷を併なっていないかどうかが問題になります。
 先ず胸部が良く動く呼吸(胸式呼吸)や腹部がよく動く呼吸(腹式呼吸)をしているかどうかチェックして下さい。
 更に手足特に両上肢、胸部をつねってみて痛みに反応するかどうかチェックして下さい。
両方に間題なければ頚損はまず大丈夫と思われます。
 

図3

5.意識障害がない場合
 表1のチェックで意識障害がなくて、首の痛みを訴える場合は先ず頚損を疑って下さい。先ず、前述の様に頭を固定しながら両手指、肘、肩関節と順に動かさせて下さい。
 これが全て動かない場合、更に他の観察者に指示して両手、両上肢、胸部、腹部と順につねって痛みに対する反応をチェックして下さい。これらの痛みに対する反応が無く、更に胸式呼吸がなくて腹式呼吸をしているものは頚損です!!
 この場合は第4頸椎付近の脊髄の傷害であり、当然下肢の麻痺を伴なっています。(図3)
(第4、第5頚椎の脱臼や骨折を伴なっていることが多い)
これより下の部位の損傷では、両上肢の運動知覚麻痺は見られないこともあります。又、第4頚椎付近より頭側の損傷では腹式呼吸もなくなる為、直ちに人工呼吸が必要となるケースもあります。
 特殊なものとして両下肢に麻痺がなく両上肢のみに麻痺がおこるものや片側の上肢、下肢に運動麻痺、反対側に知覚障害がおこるものもあります。
    表2 頚椎損傷の簡単な見方(可能性の高い疾患

6.頚損の現場での
救急処置
*直ちに救急車の要請を行います。
*呼吸麻痺、特に呼吸停止しているものは直ちに頚部を固定し、背骨をl本の柱の様に固定して仰向けにして人工呼吸(みんなのスポーツ医学17 雷とスポーツの項参照)を行います。
又、頚損疑いの負傷者をやむなくフィールド外に出さなければならない場合、その搬送方法を
図示します。(図3-@ABC)
左右にそれぞれ3名と2名が配置し、ひざまずいて、両前腕を図のように体の下にさしこむ。 両側のものが、指示に従って同時に膝を立てる。つぎに、指示に従ってゆっくりと受傷者を持ち上げる。
持ち上げられた受傷者の体の下に板をさしこむ。 板の上に静かにおろし移動する@〜Cの間、頚部を持つものは注意して、頚部が動かぬように保持しておく。
7.頚損以外の頚のケガ
 上記の様な運動麻痺がなく、頚部の痛み、手のしびれ等を訴えるもので、レントゲン検査で頚椎の骨折や脱臼がなければ、たいていは頚部捻挫と診断できます。
又、タックルやスクラム時、一定の頚のポジションで、いつも片側の上肢に痛みやしびれを訴
えるものをバーナー症候群といいます。
いずれにしても、スクラムやタックル等の基礎的な技術の練習の積み重ねが、これらの事故を減少させる唯一の方法であることは、言うまでもありません。

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日本ラグビーフットボール協会発行
「安全対策マニュアル」参照
文責
日本整形外科学会認定スポーツ医
日本医師会認定健康スポーツ医
静岡県ラグビーフットボール協会医務委員長
          浜本 肇