「現場での応急処置」
 
けがの応急処置
 スポーツばかりでなく、日常生活の中で最も多いケガは、体内の諸器官を保護している皮膚・皮下組織の損傷と思います。この表面が損壊したものを開放性損傷と言い、損壊のないものを非開放性損傷と言います。
 開放性損傷はその発生機転から、擦過傷、刺創、挫創、切創、割創、裂創などと色々な名前で呼ばれていますが、内部組織と交通を持つため感染に対する注意が必要となります。この開放性損傷についての応急処置とその注意点を述べます。
 
1.止血
T.安静挙上法
 傷が浅く出血が少ないときは、傷口を清潔なガーゼなどで覆い高く挙げておけば、血液成分がかさぶたを作り自然に止血されます。(表1) 
表1 血液凝固の機序
 
 
 
 
 
 


U.圧迫法
 体表の出血は傷口の上に清潔なガーゼや布をおき手で押さえ
ていれば、数分で止血すること
が多いです。殆どの出血はこの
圧迫法と前記の挙上法を併せ行
えば止血は可能です。
★注意事項:止血のためと言って傷口にキャベツやヨモギの葉、タバコ、ポケットの中のゴミくずをつけてくる人がいますが、破傷風に成ったら大変です。

V.タンポン法
 深い傷ではガーゼを何枚か押し込んで、上から布を当てて圧迫する方法です。一般にはあまり適しません。

W.緊縛法
 駆血帯を使用する方法で、大血管の損傷がなければ、圧迫法と高挙で止血されるので応用されることは少ないです。緊縛の
時間は1.5〜2時間を限度と
する方が安全です。
★注意事項:部位を間違えたり(前腕・下腿など骨が2本あるので適さない)、弱い緊縛では静脈還流のみ止め、出血を助長するだけでなく、組織に障害を与える結果となります。また、細めのベルト、輪ゴム、布片などで緊縛すると神経の挫滅障害を起こしたり、長時間の使用で末梢の壊死を起こしますので注意が必
要です。

X.血管指圧法:
 出血している血管の心臓に近い側を手指で圧迫する方法です。手指の動脈、上腕動脈、大腿動脈などがありますが、力が要り、そう何分も続けることは困難です。
2.傷の清浄化
 土砂などを水道水などで洗い流します。ガーゼ、脱脂綿などを用いてもよいですが、土砂などを擦り込まないように注意してください。
3.傷の消毒
 消毒液にはイソジン、ヒビテン、オキシフル、ヨードチンキ、赤チンキなどが使われていますが、夢中になって傷口を刺激したり、傷つけないように注意が
必要です。
★注意事項:早く治そうと焦って色々な消毒液をつけると、効果が失せます。たとえばヨードチンキと赤チンキを一緒に使うと化学反応で消毒効果がなくなります。
 また、深い傷では軟膏などを塗ると、傷を縫ってもつきにくくなることがあるので、軟膏処置は止めてください。
 
4.破傷風
 傷で怖れられているのは破傷風です。頻度は少ないですが、死亡率が高い病気です。前駆症状として、不安、不眠、倦怠感、引きつるような筋肉痛などがあります。発症はあごの筋肉の硬直によって口が開きにくくなることに始まり、全身の筋肉の硬直が進みます。それと同時に筋肉の痙攣が起こり、僅かな刺激でも痙攣を起こすようになります。潜伏期(24時間〜60日)が短いほど重症で、死に至ることが多いです。
 予防として破傷風トキソイドの注射をしますが、1回の注射では効果が出ず、図のように数回の接種が必要です。
図1 血中破傷風抗体価の推移
救急蘇生法
 救急処置でもっとも急を要するものです。すでに 「みんなのスポーツ医学No.17」で示しましたが、図2に示したように一刻も早く行うことにより命を救うことになります。改めて示しましたので習熟してください。
 
図2 心肺停止後の時間経過と蘇生率
    (ドリンカーの生存曲線)
A.気道確保
 図3に示すように頭部を後屈し顎を引き上げ、舌根の沈下を防ぎ気道の通りをよくします。
図3 気道確保の仕方


A-1.気道内の異物除去法
 異物が気道を塞いでいるときに行います。
Tハイムリック法(上腹部圧迫法)
 両手を使って上腹部を上方に圧迫し、異物を吐き出すまで繰り返し行います。
図4 ハイムリック法の仕方


U胸骨圧迫法・側胸下部圧迫法
 心臓マッサージと同様に胸骨部を急激に圧迫する。あるいは下部胸郭を内下方に強く引き絞るように瞬時的に圧迫します。
 
図5 胸骨圧迫法の仕方


V背部叩打法
 片方の手で前胸壁を支え、
他方の手のひらで肩甲骨間を4回ほど力強く迅速に連続して叩きます。
図6 背部叩打法
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


A-2.溺水時
 溺水では僅かな水液の誤飲によって、肺胞の微細気管支に水の膜が張られ、無気肺、酸欠と進んで脳組織のマヒ、そして心停止と進行するものもあると云われています。従って早期発見時、まず背部を平手で思い切り叩くことによって水膜を破り、吸気の疎通を得て、息を吹き返すことがあります。
 
 
B.人工呼吸法
 口対口人工呼吸法
@気道確保の状態で、親指と人 示し指で鼻をつまみ、吹き込 んだ空気が漏れないようにす る。
A術者は深く息を吸い、自分の 口を大きく開けて患者の口の 周りにかぶせ、患者の胸が膨 らむまで息を吹き込む(図7− 1)。 
B吹き込んだら口を離し、患者 の胸が自然に沈み、呼気が行 われていくのを見る(図7−2)。C1回目の吹き込みは気道開通 の状態を確認する意味で、静 かに大きく吹き込み、続く3 回の吹き込みは呼気が完了す るのを待たず、強く連続的に 行うとよい(縮んだ肺胞を広 げるため)。 
D胃膨満の発生を最小限にする 目的で0.8〜1.2Lを1.0〜1.5秒 かけて行う。
 
C.心マッサージ
 心臓は一度止まっても、適切な処置により再び動き始めることがあります。ただし脳は酸素不足に弱いので、心臓が止まり、血液循環がなくなると、心臓が再び動き出しても脳障害を残しやすいものです。それ故早期に心マッサージを行う必要があるのです。
 患者の体位は仰向けに寝かせて、1秒間に1回の割で、胸骨の下3分の1のところを背骨に向かって手のひらで3〜5cm真っ直ぐに圧迫します。
図7−1 人工呼吸の仕方

※心マッサージと人工呼吸の組合せ
 二人で行うとき:人工呼吸1回、心マッサージ5回の割で行います。
 一人で行うとき:2回人工呼吸をし、心マッサージを15回します。