「腰痛にならないために」

1.腰痛は、スポーツの大敵
 スポーツ選手で腰痛の経験のある人は多いと思います。湿布やマッサージしててもよくならず整形外科で検査したら手遅れとなっていたという話をよく耳にします。慢性的な腰痛は、スポーツ選手にとっては致命的でまず良い選手になれないと思います。そのために、腰痛を防ぐことと、もし腰痛を感じたら、早期に完全に治すことが重要です。

2.どんな病気がある?
 スポーツ障害となりやすい腰痛に、腰椎分離症と腰部椎間板ヘルニアと慢性腰痛症があります。今回は、この3つを中心に述べます。
(1)腰椎分離症
@腰椎分離症は、腰の疲労骨折
 同じ動作を繰り返していると、自然に骨が折れてしまうことを疲労骨折といい、下肢に多いのですが、腰の骨に起こることがあります。これを腰椎分離症といいます。(図1) 生まれつき分離症のある人もいますが、柔道・サッカー・野球など腰を使うスポーツほど起こる確率が増えていきます。

図1 背骨の後ろの部分が分離(骨折)する             
 

Aどんな症状がでる?
 一般的には後ろにそる方が腰痛が悪化します。痛みのために後ろに反らすことができないときもあります。かなり練習量が多かったり、急にメニューが変わったときは要注意です。

  

第5腰椎が痛むことが多い  

後ろに反ると痛い   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

B治療方法について
 早期発見が重要です。発見が遅れれば、慢性の腰痛症に移行します。専門医に行って診断を受けることです。腰椎分離症が疑われたときは、普通のレントゲンだけでなく、特殊な検査 (CTスキャン・骨シンチグラム・MRI)が必要となるために、行きつけのお医者さんとよく相談して検査を受けなければなりません。 初期であれば、安静のみで治癒することが可能です。主治医と相談して、十分な治療・トレーニングの計画を立てます。無理をすると、一生ののものとなりますので気をつけなければなりません。

(2)腰部椎間板ヘルニア
@どんな病気?
 背骨と背骨の間にある椎間板軟骨がつぶれて、後ろにとび出てしまったものです。背骨の後ろには、下肢に行く神経があるために神経にさわると下肢がしびれたり、力が入らなくなったりすることもあります。治るのに非常に時間がかかり、場合によっては手術となることもあり、スポーツする人ににとってやっかいな腰痛です。
Aどんな痛みがでる?
 徐々に痛みが発生することもありますが、一般的には急な激しい腰痛で始まり、その後腰から下肢に放散するような嫌な痛み・特にしりっぺたから大腿の後ろ〜外側のしびれや痛み(坐骨神経痛・図3)をきたすことが多いようです。前にかがめない(図4,5)、授業などで長時間座っていられないなどとも訴えます。 寝た状態で、下肢をまっすぐ持ち上げさせると、しびれ、痛みが増強する(SLRテスト図6)のも特徴です。

 
図3
坐骨神経痛
 
 
 
 
 

痛みやしびれの出るところ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

      

直立の姿勢
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

前にかがむと椎間板軟骨がつぶれる
 
 
 
 

前にかがむ(いわゆる中腰)とヘルニアになりやすくなる
 

      

図6 SLRテスト
 
 
 
 
 
 

膝を伸ばした状態で足を持ち上げてやると痛みが増強する
 
 
 
 
 

B治療は、
 やはり十分な診断をつけてから治療計画を立てます。レントゲン検査が必要ですが、神経症状(下肢のしびれや痛み)があればさらに特殊な検査も必要なことがあり手術が必要な場合もあります。 手術しないですむのなら安静が主体となりますが、通常復帰に時間がかかるので、医師と本人・コーチの綿密な連携が必要となります。 

T 急性期の治療
 安静臥床(寝ていること)・薬物療法・装具などで安静とします。安静臥床は、筋力の低下、精神状態を悪化させるので、痛みが軽くなり次第運動療法に移行させます。 これは筋肉のけいれんを取る目的で体幹の柔軟運動を行います。体幹の保護のため腹筋は重要なので、痛みがなければ顎挙げなどの軽い腹筋を行います。 

U 急性期の激痛は治ったが、ある動作でのみ痛みが出る時期
 かなり痛みが軽減してくれば、疼痛の出現しない方向での体幹の筋力トレーニングを行う。(図7、図8) 心肺能力維持のために自転車・水泳なども痛みがなければ行う。 

V 痛みがなくなった時期
 やっているスポーツで使う筋肉を考えながら積極的なトレーニング・ジョギングからだんだんスピードを付けたランニングを行います。もし痛みが出現すれば、前の段階に戻してトレーニングを行い、改善が思わしくなければ再び精密検査を受けなければなりません。 

図7 痛みが軽くなった時の運動療法

体幹の柔軟運動・時間をかけてゆっくり行う 

へそをのぞき、体を戻してリラックス(顎挙げ) 

腰部の可動域を改善させる。
(痛みが出るようならすぐ中止) 

図8 ある動作でのみ痛みが出現する時期          痛みの出現しない範囲内で、筋力強化

軽い腹筋と背筋 

スクワッティング

           背筋を伸ばして行う 

(3)慢性腰痛症
 慢性的な痛みが続く状態をいいます。急性腰痛の早期に適切な治療がされなかったため慢性化したもの、筋肉由来のもの、姿勢、疲れによるものなどの原因が考えられます。いずれにしても、医師の許可が下りれば、腰部・背部・下肢のバランスを考えて、ストレッチ・筋力増強をはかります。 

3.急な痛みがでた時
 プレー中強い痛みがでたときは、プレーを中断し、最も楽な姿勢をとらせる。急性期にはRICE(安静・冷却・圧迫・挙上)を行わせる。

4.やってはいけないこと
 痛みの強い時期から、腰を温めたり、無理に動かしたりマッサージを行ったりする。痛みがあるのに、今まで通りのスポーツを行う。 特に痛みがなくなったからと言ってそのまま筋力のバランスが悪いまま復帰させると腰痛が再発し慢性腰痛の原因となります。     

目次に戻る