(1)メディカルチェックの流れ
楽しく健康にスポーツするために、メディカルチェックをすると安心です。内科的メディカルチェックには医療機関が行うものと、スポーツクラブが行うものがあります。学校検診の結果を中心に行うと実際的です(図1)
図1小児のスポーツメディカルチェック(特に内科的チェックを中心に)
(2)内科的チェックの内容
問診・身体計測・診察・尿および血液検査・胸部X線・心電図を行い、必要があれば二次検査を行います。(図1)家族歴・既往疾患・運動歴・自覚症状・学校健診の結果などが問診されます。検尿で腎疾患を、血液検査では貧血・肝臓病・糖尿病・高脂血症を、年長女児では特に貧血をチェックします。 以上の検査から必要のある児や、基礎疾患を持った児、ハードな運動を希望する児などが二次検査の対象となります。運動負荷心電図は不整脈や冠動脈疾患(川崎病や狭心症)、24時間心電図は不整脈、心エコーは心臓の構造がわかり先天性心疾患・心筋症・弁膜症などの重症度の評価に役立ちます。 水中運動では潜水性徐脈と言って、健康な児でも自己限界まで潜水すると、潜水前の心拍数の1/2まで減少する徐脈が起きます。また地上の運動負荷心電図では不整脈が出現しないで、水泳中や潜水中だけ重篤な不整脈が出現する児がいます。簡単な検査として冷水顔面浸水法があります。
(3)メディカルチェックの目的と主な疾患の対応
メディカルチェックは隠れた病気の発見だけではなく、スポーツによる急性障害(表1)および慢性障害(表3)を予防することを目的に行われます。
表1スポーツによる内科的急性障害
1、 突然死
2、 心筋梗塞、狭心症
3、 不整脈(頻脈発作など)
4、 脳内出血(脳動脈奇形など)
5、 運動誘発性喘息
6、 運動誘発性アナフィラキシー
7、 体温異常
8、 熱中症(熱痙攣、熱疲労、
熱射病など)
9、 循環障害(起立性低血圧など)
10、筋肉損傷
11、低血糖・血尿・蛋白尿
《スポーツによる内科的急性障害》
@心疾患
中学生や高校生における 突然死の70〜80%が運動に関係していて、その80%以上が心疾患です。 大人と子供では心疾患の原因が違います。大人では高血圧・糖尿病・喫煙・高脂血症などが関係する動脈硬化性心疾患が重要です。
子供では心筋症・川崎病後遺症・先天性心疾患が主になります。 心筋症は中学生頃から症状が出ることが多いので、家族歴がある方は正常な心電図でも経過観察が必要な場合があります。先天性心疾患(病名・手術名)、川崎病(後遺症の有無)、などの正確な記載は大切で、問診から二次検査の内容が決められます。 不整脈では大人も子供も運動しても心配ないものと運動により悪化しやすいものをきちんと診断していく必要があります。*安心な疾患・慎重にする疾患最近ではかなり理解されてきましたが、心疾患は一様に安静や運動制限が必要と考えている方が少なくありません。突然死を来す疾患(表U)が他の疾患にくらべて多いのは事実ですが、スポーツをしても心配がない心疾患もたくさんあります。逆に制限が守れず不幸なケースもあります。運動の許容範囲は、スポーツの目的や基礎心疾患の重症度から個々に医師が判断します。またどのような検査を行なって判断されたかも重要です。一般には心臓病管理指導表で運動の範囲を許可しています。(No18
スポーツと突然死へ)
表2 ハイリスクの心疾患
1、心臓の後遺症を残した川崎病
2、心筋症
3、先天性心疾患の一部
(術前・術後)
4、QT延長症候群
5、心室性頻拍
6、洞機能不全症候群
A脳疾患
学校管理下の突然死の約5%は脳出血または脳梗塞です。脳内の先天性異常血管が原因で、MRIやCTなどの特殊検査をする以外に発見できませんが、検査費用が高価ですからスクリーニング検査としては、実際的ではありません。しかし痙攣や激しい頭痛のある児は検査をすすめる必要があります。
B腎疾患
検尿検査は腎炎や・ネフローゼ・糖尿病の発見に役立ちます。腎疾患では腎機能がかなり低下しても運動能力が維持されますので早期発見が重要です。また起立性蛋白尿や運動後に一過性に出現する運動性蛋白尿との区別も必要です。腎疾患にも管理指導表があります。
C喘息
喘息は小学校の5〜10%、中学生の3〜7%、高校生の2〜4%に認められます。喘息児の約半数が運動誘発性喘息を経験しています。準備運動が充分でないときに、運動開始後数分〜30分位のあいだに起きやすいのですが、呼吸をととのえれば改善し、なおれば再び参加できることも理解してください。ウォーミングアップを充分すると予防できます。
Dじんましん
運動誘発性アナフィラキシーは特定の食餌(エビ・カニなどの甲殻類や小麦粉製品など)後の運動によって、発赤、じんましんなどの皮膚症状・喘息様呼吸困難・意識障害・消化器症状をきたす疾患です。じんましんがでたら運動しないこと、運動中であればその日は中止することが大切です。
《スポーツによる内科的慢性障害》
成績が落ちたり、疲れやすい、持久力がなくなったりした時は貧血や慢性疲労症候群の時があります。疲労度、風邪を引きやすい、体重、起床時の脈拍などの日頃の自己チェックも必要です。
表3スポーツによる内科的慢性障害
1、鉄欠乏性貧血
2、不整脈、徐脈、心筋肥大、
心拡大(スポーツ心)
3、(慢性疲労性症候群)
4、ランニング中毒
(4)いつどんなトレーニング が有効か(No7 いつ運動を始めればよいかへ)
子供のスポーツ指導の原則として発育・発達に適した練習やトレーニングの方法が勧められています(図2)。また同じ年齢でも持久力よりパワ−の面で特に個人差が著しいことを考えて指導されると、心身のひずみやスポーツ障害が少なくなると思われます。
いろいろな運動に挑戦し、さまざまな技術を身につける
上手になる (脳、神経系) |
30分程度一定の
スピード運動を継続するようなトレーニング加える ねばり強くなる (呼吸、循環系) |
筋肉トレーニングを加え力強さを身につける
ちから強くなる (筋、骨格系) |
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