「スキー・スノーボード外傷」
 
1.スキー外傷の年次推移
 スキー、スノーボードほど、スキー板、靴、ストック、ユニホームなどの用具が競技成績に影響するスポーツは少ないと思われます。競技成績の向上のため最先端の技術を投入した新製品が常に開発され、これが商品として出回ることで、かっこよさにつられ技術に乏しい初心者が、競技レベルのスキーヤーと同じものを使うという風潮が作り出されています。
 初期のスキー靴は登山靴のような皮で丈の短いものを紐で締める方式でした。ビンディングは、スキー板を皮で締めるものからワイヤーで締める「カンダハー式」「ラングリーメン式」となりしっかり板に固定されることで滑走がより高速にできるようになりました。
 しかし逆にしっかり固定し、はずれないことと短い靴のため、足関節捻挫や足関節の脱臼骨折(スキー骨折 図1 )がこの時期の代表的なスキー外傷となりました。このため転倒時に靴を解放するセフティビンディングが開発され、昭和40年頃日は一般に普及するようになり、靴もバックルできっちり足関節を固定するバックルブーツとなり、靴の丈も長靴のように深く、また硬く頑丈になりました。その結果足関節部の外傷は激減しましたが、ブーツの先端部での下腿骨骨折(図2 )や膝の靱帯損傷、半月板損傷が増加し、現在では膝の内側靱帯の損傷(スキー膝)がスキー外傷の一番多いものになりました。(図3)。 また流れ止めがひもで固定するものから、スキーストッパーに変わったことで転倒した際、足から離れたスキー板が顔や頭に跳ね返ることによる頭部顔面の切挫創も増加しています。
最近は、スノーボードの外傷がスキーを上回り、スノーボードに特徴的な上肢の外傷が増えてきています。

足関節脱臼骨折

昔の靴は板にしっかり固定され、しかも強さが貧弱なため足関節の外傷が多かった
ブーツトップ骨折

最近の硬いスキー靴の最上端を支点にして前方に転倒したとき起こる(点線はブーツ)
図3 スキー外傷の推移およびスキー用具の変換 (石打丸山スキー場診療所統計より)
 

2.膝関節捻挫(靱帯損傷)
 
スキー外傷の中で最も多くスキー膝と言われ、ほとんどが内側の靱帯損傷です(図4)。スキーの先端が外に開いた状態で転倒し、膝を外側に捻り受傷するパターンが一番多いようです。さらにビンディングがはずれないと膝に強いねじれの力が働き重篤な靱帯損傷となることがあります。
 膝内側の大腿骨側に痛みがあるときが多く、約4週から6週位のギプス固定が必要になります。完全断裂であれば、膝の腫れ動きの制限、外側への不安定性が生じ、手術治療が必要になることもあります。
膝の腫脹が強く、関節に多量の血液が貯まっているときは前十字靱帯の損傷を疑わなければなりません。前十字靱帯はスポーツをするためには非常に重要な靱帯であり、この損傷がある人は、膝が不安定となり運動ができなくなり手術治療が必要になることがあります(図5)。
 しかし前十字靱帯を損傷していても日常生活に支障がないこともあるため、診断が見逃されやすく、膝の損傷が進行してしまった例も多く見られます。
前十字靱帯は、膝を伸ばしたとき膝が前方に脱臼するのを防ぐ働きがある
前十字靱帯が損傷していると膝に力を入れると前外方に脱臼してしまう
3.半月板損傷
 膝の靱帯損傷と診断された後膝に水がたまったり、膝が引っかかる症状が出てくれば半月板断裂を疑わなければなりません。
特に前十字靱帯損傷の後、数カ月たってから半月板断裂の症状が出てくることがあります。
(みんなのスポーツ医学No8参照)


4.スキーヤー拇指
 スキーの転倒時、ストックのストラップ(図6 )が親指から離れず親指が外側に引っ張られると親指の付け根の内側の靱帯が伸びてしまうことがあります(図7 )。また直接雪面に親指をつき受傷することもあります。これを「ski thumb=スキーサム」といいます。この靱帯は親指で物をつかむとき重要になるので緩みがあれば手術が必要になることがあります。
 転倒した後、親指の付け根がはれていたり、親指と人差し指でつまむ動作をして痛みがあるようなら専門医に受診するべきです。
下からストラップを通して握る(lock technique 図6)で転倒するとストラップにより親指が外側に強制され受傷する


5.肩関節の脱臼
 最近は、スノーボードによることの方が多いようですが、スキー外傷でもよく見られます。転倒して直接肩の外側を打撲したり、肘から突き上げられたり、あるいは万歳をした形で腕が後方に強制されると脱臼します。脱臼が起こると肘は体幹から少し開き、手はお腹につけた状態で動かせなくなります。
 一般的には特に若い人が肩を脱臼すると癖になることが多く整復した後、3〜5週間固定することが重要です。
 運が悪く脱臼が癖になる(習慣性脱臼)様であれば、2次的に手術を行います。

6.スノーボード外傷の特徴


 日本に紹介されたのは1970年代後半とされていますが、90年代になり競技人口が増え、多くのスキー場で滑走可能になると、スノーボードによる外傷がスキーによる外傷の件数を上回り、障害が起こる比率もスキーの4 〜6倍という統計が出ています(図8)。
図8 スノーボードとスキーの外傷の割合
図9                 図10
外傷の特徴としては骨折や脱臼などが多く、(図9)また頭部を雪面に打ちつけることによる頭蓋内出血で生命に関わることもあります。
 またスキーは下肢のけがが多いのに比べて、スノーボードでは上肢に多く、手関節部での骨折や肩や肘の脱臼が多いのが対照的です(図10)。
(みんなのスポーツ医学No20参照)
図11                               図12
 スキーでは急斜面で転倒することが多く、スノーボードでは緩斜面で転倒することが多いのも特徴です(図11)。これは緩斜面では谷側のエッジが引っかかりやすくなり(いわゆる逆エッジ)そのまま前につんのめることが多いからです(図12)。ストックを使わないため衝撃を和らげることができず頭部、顔面、上肢に重傷を受けやすくなります。転倒した際の転び方をしっかりマスターすることが重要です。
 
7.スキー・スノーボードの 安全対策
 スキー場の統計からみると延べ4時間以上滑走した人に受傷が多く、時刻では11時〜12時と14時〜15時にピークがあり、疲労がケガに関係しています。
 最近のスキー板は、カービングスキー、スキーボードなど多岐にわたり、自分のスタイルにあった物を選ぶことが必要です。
 スノーボードの方が、初級者にケガが多い傾向にあります。しかし最近ではスノーボードの技術が向上し、中級以上の愛好者が、トリッキーな滑りに挑戦して受傷するパターンも増えているという報告があります。
 ソフトブーツでは足部の骨折(スノーボーダー骨折)や緩みがあると足関節を捻挫したりするのでサイズのあった靴を選び靴ひもをしっかり締めることが重要です。
 重傷のケガの原因となるものには、衝突によることが多く、最近は裁判などのトラブルになることが増えてきています。賠償保険などにしっかり入っておくことも重要と思います。
 

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