No14「パフォ−マンスの向上と休息の必要性」
         試合に絶好調でのぞむために

1.ピーキング
 スポーツをしている時、今日はやけに体が軽いと感じたり、非常にさえていて心身共に充実していると感じたことを経験した人がいると思います。こういう時に大活躍したり、好記録が生まれたりします。逆になんか体がだるく試合中いつもの半分も実力を出せなくて悔しい思いをした人もいると思います。前者はピーキングの状態で、いつもの120%の能力が出ていたと考えられます。後者は疲労状態で、いつもの半分しか能力が発揮できなかったと考えられます。それでは、能力の向上と疲労はどのような関係で来るのでしょうか。

2.疲労と回復
   トレーニングをする事によってパフォーマンスが向上することは、次のように考えられています。たとえば図1で、非常に重いバーベルを何回も持ち上げて疲れ切った状態を@とします。もうバーベルを持ち上げることはできません。 トレーニングをやめることにより、体力が少しずつ回復してきます。これがAの状態です。 さらに回復が進み、最初のレベルを超えた状態となる期間があります。これがBで超回復の状態です。このときは、最初にトレーニングをしたときより重いバーベルを上げることができ、パフォーマンスが向上しています。その後休息を続けるとパフォーマンスは退化し、トレーニング前の状態となっていきます。(C)
実際にはトレーニングとはいろいろ要素がからんでいるためにもう少し複雑となります。

図1 疲労と回復の関係 

3.パフォーマンスの向上
 トレーニングを続けていくことによって、持続的にパフォーマンスを向上していくことができます。図2はうまくトレーニングを続けていくことによってパフォーマンスが持続的に向上していることを示しています。


 
 

図2 パフォーマンスの向上
   充分回復した状態でトレーニングして いる
 
 
 
 
 
 

4.慢性疲労状態とは
 それでは充分回復していない状態でトレーニングを続けるとどうなるでしょうか。図3は、初回のトレーニングでパフォーマンスは向上していますが、回復する前に新たなトレーニングを続けることによって疲労が蓄積し、パフォーマンスは向上するどころかむしろ低下していきます。慢性疲労の状態となり、長期間トレーニングができなくなることもあります。(No16オーバートレーニングの医学へ)
 


 
 

図3 トレーニングによりむしろ疲労が蓄積していく
 
 
 
 
 
 

5.回復するのに要する時間
 トレーニングをしたあとどれくらいで、体力が回復し超回復の状態になっているかを知ることは、大変難しい問題です。これは運動の質、量、個人によって変わってくるからす。たとえば18-22才ぐらいの年齢では、体力的に余裕があり、いちばん疲労から回復しやすいし、トレーニングを続けている人は、そうでない人より回復しやすくなります。筋力トレーニングなどは、女性より男性の方が回復しやすいと言われています。一般的には、適度なトレーニングをしたあと、24時間が回復期間の目安であると考えて良いと思いますが、持久的な運動は、早く超回復期間が来るとされ、また緊張状態が長時間続いたり、精神力を消耗するような(実戦に近いような練習など)中枢神経を使う高度のトレーニングでは、1日以上回復に時間がかかると言われています。 優秀なコーチやトレーナーは、選手の体調を把握し、最大の効果を上げるためのトレーニングの時期や、量を決めることができます。
 

6.試合前の コンディショニング
  試合当日に最高のコンディションにするためには、試合当日に身体が超回復の状態になるようにすればよいので、その前に適度な疲労をさせておくことが必要です。   
図4 試合当日に最高の状態にするために
       ト レーニングの量を段階的に調節する
 
 
 
 
 
 

図4で@からDはトレーニングの強さを表しています。試合前に@、A、Bと段階的に負荷を強くしてトレーニングをおこない身体を疲労させます。試合が近づくとCと、負荷を減らしてトレーニングを行い、さらにDと負荷のないトレーニングまたは、休息をさせます。競技前に練習量を減らし、負荷のない状態を作ることが、ベストの状態に持っていくためには重要な鍵となります。
 

7.疲労を回復させるために
 回復を早めるためにいくつかの方法があります。

@運動療法
 疲労した筋肉を回復させるために、完全に安静にさせるよりもむしろ適度に動かした方が早く回復することがあります。たとえば下半身のトレーニングをしたあと、上半身を使うことにより下半身の筋肉の疲労が早く回復するという報告があります。また曲げる筋肉を疲労させたとき反対の伸ばす筋肉(拮抗筋)をトレーニングさせることにより、回復が早まることも報告されています。ストレッチも疲労を回復させる力があります。

A睡眠
  疲れた身体を回復させるためには最も重要な方法です。リラックスしてぐっすり眠れる環境を作ることが必要です。拘束から解放された自由に使える時間を持たないと疲労が蓄積しやすいと言われています。

B心理的影響
  不安定な感情でいると疲労がとれにくいとされます。団体競技では、良いチームの雰囲気、個人ではコーチや監督、家族、ライバルとの良い関係が疲労を回復させる働きがあるようです。

C食事
 特に体力を消耗したときには、疲労した筋肉にエネルギーを与えるために十分な糖質(炭水化物)が必要であり、フルーツや野菜は、ミネラルやビタミンの補給に欠かすことはできません。疲れて食事もとれないようでは、次の日にも疲労を残してしまいます。(No4スポーツ栄養学へ)

D交代浴
 シャワーを浴びることにより、神経がリラックスし、回復が早まるとされています。10-20分の温水浴と水のシャワーを組み合わせることで、局所の血液の流れも改善し、回復を早めます。

Eマッサージ
  適度なマッサージは、血液の流れや、有害物質の排出を促進し、回復が早まります。しかし、痛んでるものには逆効果だし、スポーツマッサージの手技が必要となります。
 

8.最高状態で運動をするために
 今回述べたことは、トレーニング理論の基礎的なことですが、なんといっても100%以上の力を出すためにはケガのない状態で試合に臨むことです。身体的には120%の力がでても、一カ所でも障害があれば満足な活躍はできないと思います。                                              

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