(1)肉はたくさん食べる?
「郷土の高校球児の甲子園便り」という見出しで、宿のおばさんの心尽くしで、敵に勝つとゲンをかついで、ビフテキや豚カツを食べる球児たちと、写真付きで試合前の夕食メニューを紹介する新聞記事を、むかしよく見ました。彼らは翌日の試合に勝てたのでしょうか。おそらく相手校も同じメニューと思うので、食事では勝負は決まらなかったでしょう。 肉や脂肪をたっぷりとった翌日は、からだが重く動きが鈍く、息切れがしやすく、判断力もさえない状態が普通です。血液中に脂肪滴が大量に流れ出すのがその理由です。 しかし、肉を食べるとスタミナがつくという迷信は、現代でも多くの人に信じられています。焼き肉屋に行ってひたすら肉を食べまくる、というワンパターンから脱したいものです。 NFLのあるチームが行い、そのシーズン優勝をかち取ってしまったように、‘キレ’があるコンディションづくりは、肉食を減らすことから始まります。(翌年は他チームもマネをしたので連続優勝できなかった) 動物性蛋白質(肉)の必要量は、成人でも20〜30グラムです。筋肉を酷使するプロの選手でも、練習後に50〜70グラム取ればよい。筋力アップのためには、負荷をかけた直後(2時間以内)に肉を食べると効果的だということがわかっています。 必要量よりあまった分は、脂肪に転換して蓄積するので肥満します。また、肉には脂肪が多く含まれるので、カロリー過剰になり肥満しやすい。
(2)血液の酸性とアルカリ性
肉ばかり食べると血液が酸性になる。野菜を多く食べれば血液がアルカリになるという説は、100年前の栄養学です。人の血液の酸度は、PH7.4と一定に保たれていて、食事の内容に影響されることはありません。なにを食べたかにより血液の酸度が簡単に変化すると、食後に体調がどんどん変わってしまい、活動が困難になります。たとえば、PH7.6になると、高度のアルカリ血で筋肉はぴくぴくひきつるし、
PH6.9の酸性血になると極度の倦怠感でなにもできなくなります。
(3)みず!みず!みず!
運動中は水を飲むなという迷信のもとになったのは、戦争で歩兵が行軍中(第二次大戦の歩兵は自分の脚で歩いて長距離を移動した)、異国の水を飲んで下痢症にかかり体力を消耗するのを防ぐために注意したからだそうです。 Jリーグの選手はひまさえあればボトルから飲んでいます。これだけ飲んでも試合後にドーピングテストのため尿をとろうとしても、1時間も2時間も出ない選手がいます。
水分補給を十分すれば、
@体温上昇をおくらせ、
A組織間液が酸性化するのを防ぎ
B心身のスタミナが保てます。
のどが渇いてから飲むのではおそく、渇いたと感じる前に定期的に飲むと効果があることが科学的に実証されています。重いかぜや二日酔いで倦怠感が強いときに点滴が効くのはAの理由からです。
U.“よくないトレーニングのいろいろ”
(1)ウサギ跳びは、腰を強くするのによいか?
科学的に測定するとほとんど効果がなく、下肢に強すぎる負荷がかかり障害がおき易いのです。また、ウサギ跳びをしてから他の練習をすると下肢にケガをしやすいことが知られています。世界中で日本だけで行われているウサギ跳びでおこりやすいケガには、腓骨の疲労骨折、半月板損傷、オスグッドシュラッター病(脛骨結節の剥離)などがあります。
(2)星飛雄馬の大リーグ養成ギプス(思春期前の児童の筋力トレーニング)
思春期前の児童が筋力トレーニングをすると、四肢の長い骨の伸びが盛んなのに腱や筋肉の伸びは遅れがちで、伸びきった状態にあるため、筋トレの負荷で腱や筋繊維の断裂、脛骨端の剥離骨折(オスグッドシュラッター病)が起こることがあります。 専門的に測定すると、筋横断面積は増加するが単位面積当たりの筋力は増加しないことがわかっています
(3)筋力トレーニングは、限界までやるとよい?
柔道部の高校生で、腕立て伏せを100回近く行い、腕がふくらはぎより太く腫れ上がり、横紋筋融解の寸前だった例があります。部分的な過負荷により大量の乳酸蓄積が生じ強い炎症を起こしたためです。治癒した後も繊維化が生じ、もとの筋量にもどらない可能性もあります。 筋トレは、最大筋力の30〜80%までを一定の回数する、というルールがあります。 これ以上しても効果が出ないどころか上の例のようにケガをしたりかえって力が落ちてしまいます。
(4)野球選手は水泳をしてはいけない?
野球選手は肩を冷やすといけないといわれ、夏でも水泳は禁止された時代がありました。これは試合中の投手が、次のインニングまで肩を冷やさないようにするのとまちがえたのでしょうか。いま、投手は試合後に炎症予防のため、肘を氷水に入れて冷却することはよく知られていますね。 水泳は普段使わない部分を使い、水中で重力の束縛を脱して自由に動けるので精神的リラックスが得られるためプロ野球のキャンプでも取り入れています。ストレスの多い日本人にはもっと勧めたいスポーツですが、プールが身近に無いことが難点です。
V.その年令で、そのトレーニングは無理! 19才のスーパースターが生まれる秘密
(1)遊びと子ども
小学生のころは、外で長時間遊ぶことが人生を豊かにします。スポーツの原点は、走る、泳ぐ、投げる、棒で打つ、蹴る、取っ組み合う、などの子どもの遊びです。遊びにより得るものは多様な運動能力だけでなく、大人による管理がされない子供仲間とのつきあいから生まれる、自己の確立です。教室やスクールや少年団ではコーチが懇切丁寧に教えてくれますが、管理のもとで練習や試合をするシステムは、子どもが遊びによって獲得する心と身体の自発的な発達にはとうていかないません。 サッカー少年団が世界一発達しているオランダでは今年から、大人の管理をいかに少なくするか、子どもの自発性をいかに伸ばすか、というテーマをかかげて、まったく新しい練習法をトライし始めました。
(2)小学生で、高い技術(スキル)を身につける
子どもは難しい技術はやらなくてよい!単純な基礎を反復練習すべきだ、というのはまちがいです。子どもほど難しい技術をすぐ覚え、短時間にマスターする時期はありません。スキャモンの曲線で見るとわかるように、この年代では、脳重量は成人の8〜9割まで達している。つまり神経系の発達は、筋力、心肺能力、骨格などにくらべて著しく進んでいます。子どもがファミコンやヨーヨーやボールリフティングがうまくなる様子を見るとわかりますが、見た目に派手な、トリッキーな技術を見ると誰に命令されなくても親がやめろと言っても聴かないほど熱心に練習をします。プロ級の高度な技術を見せてあげるとまねして数カ月でうまくなってしまいます。 試合は気軽なものだけとし、勝敗にこだわる試合をすると伸びやかな発達をゆがめてしまいます。
(3)中学生からは?
軽い負荷で持続的に運動を行い、高度な技術で運動を続けられるようにする。試合をして他と競い勝つよろこびや負ける悔しさを覚えさせることもいいでしょう。 この年齢は思春期のはじまりで、個人差がもっとも大きい時期です。まだ骨格や筋肉の発達が少ない「おくて」な子と、二次性徴が発現し男性的な体格の「早熟」な子と、「普通」の子とが混在しているので、コーチは少なくとも上記三グループを配慮したトレーニングメニューを考案する必要があります。
○15〜18歳 負荷を増大させ高 度な技術にスピード、パワー(筋力)スタミナ(呼吸循環 系)を加えた能力を身につける。
自分やチームに高い目標を設定 し、達成するためのトレーニン グに耐えるのもこの年代からは
可能になってきますが、個人の 発達段階を数カ月毎に見直す、 きめ細かなコーチが必要です。
○19歳以上、高い目標設定、強 い闘志、試合の駆け引き、集中
の仕方、試合後のリラックスな ど心身の統一的な能力を開発さ せ一流の選手になる
○このように年令よりもその子 の発達の度合いに適した教え方
をすれば、子どもはスポーツを 楽しみながら一流選手になって ゆきます。これこそテニスや、
ゴルフや、サッカーや水泳やジ ャンプなどで、19歳のスーパー スターが生まれてくる秘密です。
(No7 いつ運動を始めたらよいかへ)
スキャモンの発育型
20才での達成度を100%とした場合の、身体機能の発育の進み方